戸田の杜クリニック 院長&スタッフブログ

がんについて

日々秋らしさが増してきました。

今年は浦和レッズはACL(アジアチャンピョンズリーグ)に参加していないし、Jリーグでも早々と優勝争いから脱落し、さらには山田直輝君も腓骨骨折で長期離脱しているもんだからテンションが上がらない。

10月16日は王龍の黄店長にお誘いいただき、埼スタでのジャパンvsウルグアイ戦を見に行きます。世界一流のプレイを間近で見れるかな。

さて今回はがんのおはなしです。

高齢化によりがんの発症は経年的に増加しています。現在がんの発症は年間100万人で、死亡は37万人に上ります。二人に一人(男性62%、女性46%)は生涯に一度はがんにかかるといわれています。

正確にはがんとは上皮性組織由来の悪性腫瘍のことです。発生学的に言うと外胚葉に由来する組織から発生します。主に体骨格を構成する部分になる中胚葉由来の悪性腫瘍は肉腫(骨肉腫とか横紋筋肉腫とか)と呼ばれます。他に造血組織由来の悪性腫瘍は白血病や悪性リンパ腫と呼ばれます。アスベスト被害で有名になった悪性中皮腫は胸膜という肺を包む膜に発生します。これら悪性腫瘍をまとめて一般にがんと呼んでいます。

がんの特徴は自律性に増殖すること、周囲組織に浸潤したり遠隔組織に転移したりすること、慢性炎症を起こし悪液質と呼ばれる消耗状態に陥らせること、の3つです。良性腫瘍でも自立性に増殖しますが、後2者はおこりません。

がんの原因は遺伝子変異の累積です。現在では多くのがん促進遺伝子や抑制遺伝子が同定されています。一般的には、環境因子による遺伝子変異によりがん抑制遺伝子が不活性化されたり、促進因子が活性化されたりすることの積み重ねでがんが発生します。さらに浸潤や転移を促進する遺伝子変異が起こると次の段階に進むわけです。遺伝的にがん抑制遺伝子が弱い人や、促進因子をはじめから持っている人がいますが、そういう人は若くしてがんが発生しやすくなります。

単一の遺伝子変異で発生するがんもあります。EML4‐ALK融合遺伝子という変異は単独で肺がんを発生させます。これは非小細胞性肺がんのうち5%を占め、35歳未満の若年発症のものでは40%に認められるといわれます。

がん発生に対しては身体側の防御因子として免疫応答があります。がん細胞のもとは毎日数100個以上発生しているといわれそのほとんどは白血球、NK細胞、樹状細胞などの自然免疫やT細胞、B細胞などの獲得免疫により攻撃され自然排除されています。がん細胞側は1.細胞表面の抗原性発現低下、2.免疫抑制性サイトカイン(ホルモンのような微量物質)分泌、3.免疫抑制性細胞の誘導、4.免疫細胞を抑制するシグナル提示、などの作戦を用いて生き残ろうとし、生き残った者ががん細胞として増殖していきます。4番目のシグナルの一つにPD-1というのがありこれを抑制することにより抗がん作用を発揮するというのが、2018年のノーベル医学生理学賞を受賞した本庶先生の開発したオプシーボです。ただしPD-1 が発現しているのはごく一部のがんなので全部のがんに効くわけではありません。

がんは早期発見するに越したことはありません。便潜血反応による大腸がん検診、子宮頸がん検診、乳がん検診などは早期発見により寿命延長効果が確認されています。

巷でよく言われる腫瘍マーカーはどうでしょうか?

腫瘍マーカーとはがん細胞が死んででてくる、細胞内の特殊たんぱく質などです。一般に初期のがん細胞は栄養や血流が確保され死なないので結局かなり進行してからでないと検出できません。腫瘍マーカーは一般的にはがんの早期発見には向かないのです。前立腺がんはかなり進行が遅いがんなのでPSA高値で発見され、完治に繋がることもあるのですがそもそも命にかかわらないがんであった可能性もあります。

現在早期発見につながるかもしれないと期待されているのがマイクロRNA(miRNA)という20塩基対程度の1本鎖RNAです。エピジェネティクスやジャンクDNAのことはブログでも何回か書いていますが、タンパク質をコードしている遺伝子以外の部分で遺伝子発現を調節しているもののかけらがmiRNAです。現在ヒトのmiRNAは2500種類ほど同定されています。各種がんで特徴的な変化があることが分かってきて(がん抑制遺伝子なら低下、促進遺伝子なら増加)これらは、かなり早期の段階で血中にこぼれ出しているのです。

血液1滴で13種類のがんが早期発見できるかもしれない、という研究が現在国立がん研究所センターを中心に進行中です。近い将来実際に有効なものになるといいですね。

さて、がん発生につながる環境因子で我々が制御可能なことはなんでしょうか。最近の国立がん研究所センターの報告では5つの生活習慣、すなわち禁煙、節酒、適切な食生活(減塩、カロリー維持、食物繊維など)、適度な身体活動、適正体重の維持の5つに気を付けると男性で43%、女性で37%もがんのリスクが低下するそうです。

もって生まれは遺伝子は変えることはできないけど、遺伝子をがん遺伝子に変える誘因を制御することはある程度可能なのですね。実践したいものです。