戸田の杜クリニック 院長&スタッフブログ

感染防御ー特に自然免疫について

生物は細菌、真菌(カビ)、ウィルス、寄生虫などの多くの病原体から身体を守っています。一見当たり前のことですが、どのような仕組みで防御しているのかという点に関しては深く考えることはあまりないですよね。

ワクチンやはしかには二度はかからない、などで知られる獲得免疫は何となく理解しやすい感じがします。詳しい機序はさておき、その病原体を免疫細胞が覚えていて次に感染した時、あるいは接触した時に速やかにやっつけてくれる、まさにそういうことです。

今回とり上げるのは、その前の段階です。

病原体からの攻撃に対してはまずはじめに接触面に防御機能があります。皮膚にはケラチン層という、呼吸器や消化器の上皮には粘液による物理的防御があります。皮膚を怪我したり乾燥してのどの粘膜が乾いたりすると病原体は侵入しやすくなります。肺と気管には繊毛(せんもうと読みます)というブラシによる菌や異物排除機構があります。加齢によりこの繊毛運動は低下することが知られており高齢者に肺炎が多い原因の一つです。皮膚は弱酸性になっていることとβーディフェンシンという抗微生物ペプチド(アミノ酸が繋がってできるもの)による化学的防御があります。唾液や涙に含まれるリゾチーム等の酵素は抗細菌物質です。胃酸の強力な酸性度、消化酵素も病原体のたんぱくを分解するので化学的防御機構です。

皮膚や上気道(口内やのど)、腸内には正常細菌叢がいて養分や繁殖場所をめぐって病原体と拮抗します。

さて、このような防御機構を突破して病原体が体内に侵入したとします。まず障害や感染した細胞がプロスタグランジンやサイトカイン(インターロイキン、ケモカイン、インターフェロンなど)といった炎症を惹起する化学信号を出します。組織に免疫細胞を呼びやすくするように発熱、血管拡張がおき結果として組織はむくみ、痛みを感じるようになるわけです。

次に白血球がかけつけます。まずはじめに好中球という白血球の半分以上を占めるものがやってきて病原体を食べ消化します。細菌性感染症では主役となり骨髄からどんどん誘導されて白血球中の割合が80%~90%に増加します。ただし寿命は2~3日と短いです。闘って死んだ好中球は膿や色のついた痰、鼻汁などになります。黄色や緑の痰や鼻汁は好中球が頑張ってくれた証拠なのですよ。黄色や緑の違いは死んでからの経過時間(緑の方が長い)の差です。他に組織中にはマクロファージ(大食細胞)がいて病原体を食べ消化し、食べた後は自らも賦活化されサイトカインを産生し免疫全体を活性化させ、さらには弱いながらリンパ球に病原体を飲み込んだという抗原提示もしています。抗原提示というのは、食べたものの成分が外来性の物質(つまり自己の細胞の死骸ではないということ)だと認識してリンパ球に伝えるということで、TLR(トル様受容体)など約1000億の抗原が提示できるといわれています。マクロファージは自己細胞の死骸も見境なく食べてくれる細胞なので、自己をちゃんと認識しないと、病原体に攻撃されたという誤った信号を出してしまうので、自己認識という機能は非常に大切です。さらに樹状細胞という食細胞が皮膚、鼻、肺、胃や腸といった外界との接触面に存在しています。樹状細胞はリンパ球への抗原提示で主な役割を果たしています。TLRやCLR(Cタイプレクチン受容体)、NDR(NOD様受容体)などが発見されていますがこれらは細菌や真菌の細胞壁の構造、ウィルスのDNA・RNAといった遺伝子の構造、細菌の鞭毛などを認識しています。ただし好中球やマクロファージによる初期対応で病原体が退治できた場合は樹状細胞の役割はありません。

初期対応で感染が制御されなかった場合、病原体を食べて活性化した樹状細胞はリンパ管を通り最寄りのリンパ節に移動しナイーブT細胞というリンパ球に抗原を提示することになります。この場合ナイーブT細胞は提示された抗原にぴったり合う受容体を持ったものが反応します。1000億種類あるという抗原に対応したT細胞がすでに体内で準備されているということは人体の驚異ですね。ただしお互い出合わないと抗原提示は始まらないので確率を増やすために樹状細胞もナイーブT細胞もリンパ節→リンパ管→静脈→心臓→動脈→組織→リンパ管→リンパ節という循環で10~20時間サイクルで体内を巡っています。さてリンパ節で樹状細胞に抗原提示されたナイーブT細胞は増殖し1万倍位まで増殖しほとんどの細胞は活性化ヘルパーT細胞になり先の経路と同じ道をたどり目的部位に到達します。

リンパ節でリンパ球が1万倍に増えるので、一生懸命活動指定しているリンパ節は腫れて、多くの場合は痛くなります。つまり腫れて痛いリンパ節は感染は起こってしまったけど正常に免疫活動が働いている証拠なのです。

一部はリンパ節に留まり記憶T細胞となり次回の感染で速やかに反応するために長期保存されます。病変部位に辿り着いた活性型ヘルパーT細胞はマクロファージと結合し、マクロファージはさらに活性化されて病原体を食べまくるようになります。

活性化ヘルパーT細胞はナイーブB細胞というリンパ球に信号を伝達し、B細胞は抗体(免疫グロブリン)を産生します。抗体は血流を流れていき病原体と結合し無毒化したり食細胞にさらに食べられやすくなるようになります。初回感染で抗体が産生されるまでには1週間かかり2週間目にピークになります。2度目の感染ではこれが4日でピークを迎えるほど迅速に抗体が産生されます。

ウィルスや細菌が細胞外にいるうちはいいのですが細胞内に入ってしまった場合は、これまで述べたような免疫機構では対抗できません。ウィルスは細胞内で増殖しますしリケッチアやクラミジアなどの細菌は細胞内寄生します。これに対してはナイーブキラーT細胞が活性化されて感染細胞にまるごとアポトーシスという細胞の自殺をおこさせ、食細胞に食べてもらうように誘導します。

以上自然免疫について述べました。このへんのことは実は2000年のミレニアムをまたいで新たに分かってきたことでTLRについての研究は2011年のノーベル医学・生理学賞の受賞対象になりました。

獲得免疫や腸管免疫、腫瘍免疫などについてはまた改めて書こうと思います。